Part.1
貧乏旅行のスタートはバスタ新宿から。ぬ氏に抑えてもらっていた富山行きの格安バスのチケット(電子版)で高速バスへと乗り込む。格安旅行のクラブツーマサルであるから、夜行4列は当然不可避。まあ、他の乗客の民度がそこそこで寝れそうなバスなら何でも良い。天気予報で大正義日本気象協会が曇り時々晴れの天気を出していることを確認。一週間前の曇り予報に比べれば断然良い方向に流れている。バス内が消灯した後は早々と就寝した。
とはいってもそこまで爆睡できるはずも無く、全身が痛みながらの起床である。ガッチガチに痛む体を無理やり起こして、富山駅北口へと降り立った。さぁ、久々の北陸ツアーだ!衣服類を駅のロッカーに投げ込み、ワクワクしながら電鉄富山駅へとなだれ込む。幾年ぶりの富山地鉄にテンションを上げずには居られない。
駅で適当にスナップしつつ、立山行きの列車に乗って有峰口で下車。元京阪3000系がやってきた。しばし転換クロスで朝飯を摂り車窓を眺めていると、いよいよ山が迫ってきた。常願寺川が列車に迫ってくると同時に、千垣橋梁を渡った。間もなく、有峰口駅に到着である。駅を去りゆく列車と立山をどうにか絡められないか…?瞬発的に、ワンマン運転用のミラーが目に入った。これだ!
2017.09.20 07:00 富山地方鉄道立山線:有峰口駅 (Canon7DmarkⅡ EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM ISO-500)
ミラーにくっきり写ったかぼちゃ色の電車と、出発信号の向こうに見ゆる立山のシルエット。これぞ富山!と思える光景である。
駅での撮影はそこそこにして、先程渡った千垣鉄橋は立山線随一のお立ち台である。早速そこまで歩き、撮影を開始。まずは、立山から富山へと下る普通列車を迎撃する。渓谷であることを強調するため、そして白い空を極力カットしつつ、清流の流れを大きく写そう。
2017.09.20 07:35 富山地方鉄道立山線:千垣~有峰口 (Canon7DmarkⅡ EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM ISO-500)
特徴的な下部トラス構造の橋梁に現れたのはかぼちゃだった。出来れば雷鳥色が良かったが贅沢は言えまい。朝早すぎたせいか影落ちしているのが残念である。しかし、時期も時期なので順光時間が相当短い。朝一番列車でないと側面に十分な光が回らないのだ。
まだ一本しか撮影していないが、見事応募で当選した行けることになった立山砂防見学会に向かう5人中3人はここで別れ、一路立山駅横の砂防カルデラ博物館へと向かった。残されたぬ氏と私はここでの撮影を続行した。
しかし、お天道様に恵まれたのはこの時だけであった。次第に雲が厚くなっていき光量が減っていった。結局、千垣鉄橋での晴れカットは先程の1枚に留まった。続いて、千垣駅の向こうへと歩き下り列車の面縦を狙う。
2017.09.20 08:48 富山地方鉄道立山線:横江~千垣 (Canon7DmarkⅡ EF70-200mm F4L IS USM ISO-250)
富山にまで来てわざわざ東急を撮りに来たつもりは毛頭なかったが、残念ながら来てしまった。投入当初は固定運用だったらしいので多少安心していたのだが、2編成に増備された段階でフリーになってしまったのだろうか。噂によれば特急料金を取ることもあるらしい。グラデ帯は大学の最寄り駅だけで十分だ。
レッドアローや地鉄オリジナルが来なかったことに軽く絶望しつつ、山を降りることにした。横江の辺りで一気に渓谷が開けていき、車窓が次第に散村が特徴の田園風景へと戻っていった。分岐駅の寺田で特急に乗り換えて一気に宇奈月温泉へワープ!黒部渓谷の下見である。
2017.09.20 11:02 黒部渓谷鉄道:宇奈月駅 (Canon7DmarkⅡ EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM ISO-400)
仮設に成り果てていた富山地鉄には目も暮れず、黒部渓谷鉄道の駅舎へと入る。ズラリと並んだ切符売り場に、ある種のセンスを感じる扇形の改札口に気がついたらシャッターを切っていた。ええやんええやん、まるで遊園地のアトラクションみたいである(実際アトラクションみたいなものであるが)。
お手洗いを済ませ、トロッコ広場の凸型電機を見つつ定番であるやまびこ展望台へと向かう。流石に木の枝が伸びており、上手にかわす必要がありそうだ。狭い展望台の中で良い立ち位置を探る…ここだっ!
2017.09.20 11:13 黒部渓谷鉄道:柳橋~宇奈月 (Canon7DmarkⅡ EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM ISO-400)
2017.09.20 11:56 黒部渓谷鉄道:柳橋~宇奈月 (Canon7DmarkⅡ EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM ISO-500)
曇りは基本的にディスアドバンテージしか産まないが、北側からの画角がメインであるこの撮影地群ではいい方向に働いた。9月という時期特有の濃い深緑に真紅の新山彦橋が架かり、このコントラストがまた素晴らしい。紅葉の時期のこの橋の写真を見ると感嘆するが、こちらもこちらでいい景色である。
展望台からの俯瞰アングルと旧山彦橋からの仰望アングルそれぞれ長編成で抑えて、砂防ダム建設で付け替えられた旧黒部渓谷線の遊歩道を歩く。お次に向かうは、黒部渓谷線唯一の編成撮り撮影地である発電所前である。取り敢えず構えて待機するも、単機牽引の職員専用列車が来てショボい。お次の列車も…職員専用列車。当然編成が短く単機牽引。こんなんで黒部渓谷鉄道を撮ったとは言わせまい。ぬに無理を言って撮影を続行。次の列車は旅客列車だ。逆方向の列車を面縦で見送り、宇奈月到着と共に下り列車が発車。山彦橋を渡り始めたところで編成を確認。これは重連に十分な両数。よっしゃ来たぁ!
2017.09.20 12:49 黒部渓谷鉄道:宇奈月~柳橋 (Canon7DmarkⅡ EF70-200mm F4L IS USM ISO-800)
箱型重連に連なる長編成の客車…これこそ、黒部渓谷を代表する列車だ。これだけの高頻度で重連牽引の列車が来る鉄道は日本中どこを探してもここだけだろう。
これにて満足し撤退。しかし温泉に入るほどの時間が無かった為、駅前の足湯で黒部渓谷線のDLが突放で入れ替えている光景を優雅に楽しみながら湯船に浸かった。それにしても、この足湯は公共部と地鉄構内部に分かれている。この後ダブルデッカーエキスプレスに乗車するのだし、地鉄側の足湯に入ろうと駅員に掛け合った。地鉄構内の足湯は入場券やきっぷが必要なのは分かる。なのだが、そういう切符を持っている旅客に対しても列車到着時間帯以外は入場を制限しているのには少々理解に苦しんだ。折角水戸岡(笑)氏に設計してもらった足湯なのに勿体無い。果たして今は改善されたのだろうか?
時間になったのでダブルデッカーエキスプレスの2階席に乗車し、しばしの乗車を愉しむ。途中で下車してアルペン号にカメラを向けた気がするが気のせいだろう。曇天と夕立ちに降られてさっさと撤収し、格安宿に入庫した。
夜の帳も落ち、駅前の海鮮屋で富山の魚介(?)を堪能。あまり記憶に無いがまぁまぁ美味しかった気がする。お腹も幸せになったところで、麻雀牌を買いに遠くのドンキへ向かった2人と分かれ、昼間の戦果を回収すべく稲荷町車庫へと向かうこととした。
2017.09.20 20:01 富山地方鉄道:稲荷町駅 (Canon7DmarkⅡ EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM ISO-160)
うーむ、配置が悪い!レッドアローと大根が並んでいるのはいいのだが、中途半端に京阪が飛び出ている。なんとか工夫しようと頑張ったが、どうにもならないのが自分の腕の限界といったところだろうか。
程よく撮った辺りで駅を出る。が、駅前のスーパーが閉まっており、今宵のビールはドンキ組の二人へ外注することにした。私は初心者なので飲みやすいスーパードゥライを注文した…のだが、イ君は残念ながらクリアアサヒとかいう外道を買ってきやがって帰ってきた。アホかよ~と思いつつ寝落ちした。主がアメリカから持参したワインは美味しかったような気がする。
翌朝は朝5時前に起床して宇奈月温泉へと向かう。欅平9時集合のイベントに向かう為だ…そう、「黒部宇奈月ルート」である。
黒部宇奈月ルートとは何かここでおさらいしておこう。通常、黒部渓谷鉄道は欅平まで旅客営業しており、いわゆる黒部渓谷観光の最奥地となっている。だが、実際にはその鉄路は更に奥地の黒部川第四発電所へと続いている。更に乗り物を乗り継ぐことで、黒部ダムへとたどり着くことができるのだ。しかしこのルートは関西電力の私有地であり、通常立ち入ることができないが、はがきで応募・抽選でこのルートを通ることのできる『黒部ルート見学会』を月5回前後、公式で実施している。倍率は高い時で5倍程度になり、熾烈を極めている。
今回は見事に第一志望の倍率よりも高い5倍の難関を勝ち抜き参加できる運びとなった。平日のみ実施なので隠居済みの世代が多く参戦していたように思う。レストハウス2階で集合した後、いざ上部軌道へ!
まずは欅平駅のホーム南側へと向かい、宇奈月温泉から運行してきた長編成の旅客列車を普通車3両編成へと解放する。そしてその普通車の牽引機として現れたのは、欅平構内の入換に使われるED凸形。思いがけない出会いに心高ぶる。今残っているED凸は9と10のみで、どちらも1934年の製造から80年間第一線で活躍している化物である。その機関車のエスコートで、400m奥に位置する欅平下部駅に移動。最大積載を誇るエレベーターで200m上昇し、欅平上部駅に到着。なんだここは…冒険心を擽られてしまう!
2017.09.21 10:13 黒部渓谷鉄道:欅平上部駅 (Canon7DmarkⅡ EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM ISO-1250)
真っ暗闇に浮かぶトロッコ列車。こんなの探検と言わずして何になる。
撮影もそこそこに、列車は発電所に向け発車。ヌルい高熱隧道を抜け、仙人谷駅に到着。この区間において唯一屋外に出る場所である。とはいって、土佐北川さながら橋上に駅が設けられている。
2017.09.21 10:41 黒部渓谷鉄道:仙人谷駅 (Canon7DmarkⅡ EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM ISO-160)
仙人谷駅の向かいに見えるダムは仙人谷ダムと呼ばれ、戦前に完成し電力を送ったダムである。しかし現在では土砂の堆積が進み、ほぼダムとしての機能を失っている状態にある。一方でくろよんは土砂満杯まであと数百年掛かるとも言われており、規模の違いに大きく驚かされる。
この駅で10分程撮影時間が設けられた後は、終点発電所前まで移動。タービンなどの地下に設けられた発電設備を見学し、インクライン&バスで無事黒部ダムへと到達した。ここで、黒部ルートは終点。そして、世紀の大プロジェクトの末に完成した黒部ダムのお出迎えである。
2017.09.21 13:05 黒部ダム展望台 (Canon7DmarkⅡ EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM ISO-100)
8月の旅行前に一回訪れているが、やはりこの威圧感は半端ではない。人のサイズと比較してもその大きさはピカイチである。
2017.09.21 14:07 黒部ダム (Canon7DmarkⅡ EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM ISO-160)
展望台へと通じる道は地中に設けられた上り階段と、外のコンクリ壁に沿って設置されている外部の下り階段の2つがあるが、外階段は当然コンクリに打ち付けられている。黒部ダム本体側から望遠で切り抜くと、まるでマチュピチュへと向かう小路のような雰囲気である。
スタンプラリーを終えて組立式トロバスペンケースをゲットしてケーブルカーへと駆け込む。発車まで時間が僅かであったがなんとか間に合いセーフ。更にロープウェイとトロバスを乗り継いで室堂へと辿り着いた。室堂では立山行き終バスまで2時間弱の余裕があるということでウォーキングすることになった。
2017.09.21 15:58/16:25 室堂 (Canon7DmarkⅡ EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM ISO-100)
足が疲れておりウォーキングに反対派であったが、渋々付いていった記憶があるが…そんなことを吹き飛ばしてしまう絶景であった。雲上の楽園に聳える立山の霊峰と、時が止まったかのように静かな水面を湛えるみどりが池の水鏡に、心の琴線が響かないはずが無かった。一方で浄土山の方へ目を向ければ、これまた日本国内とは思えない荒野が広がる光景だった。森林限界を超越した高山帯の雰囲気に驚きを隠せないまま、私は室堂から帰りのバスへと乗車した。発車してすぐ、雲上の庭園の景色はホワイトアウトし、厚い雲の下にある富山の街を目指してこの地を去るのであった。
2017.09.21 16:25 室堂 (Canon7DmarkⅡ EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM ISO-160)
室堂へと戻る道中、傾き始めた日差しの中ただただ広がる荒れ地を突き進む。行く先に見えるのは、この霊峰を包み隠す雲海だけであった。