中央夜行の旅立ち

2017.07.14~2018.05.02 ムーンライト信州

Write Date : 2018.07.07

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2018.05.02 23:05 中央本線:新宿駅 (Canon7DmarkⅡ EF50mm F1.8 STM ISO-200)

 世界最大の乗降客を誇る巨大ターミナル駅、「新宿駅」。

 飲み会帰りのサラリーマンが帰宅路につく大都会の駅だ。

 その中で、全く異質な空気を漂わせている一角があった。

 JR新宿駅9番ホーム、いわゆる中央本線特急ホーム。

 信州へ向かうスーパーあずさはおろか、甲府行きかいじやライナーも出払った。

 終電が終わったような雰囲気の中で、ひと味違う列車が今旅立とうとしていた。

 彼の名は、"ムーンライト信州"。21世紀にまで僅かに残った夜行普通列車だ。

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2017.07.14 23:44 中央本線:新宿駅 (Canon7DmarkⅡ EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM ISO-100)

 ムーンライト信州は、元の系譜を辿れば夜行急行「アルプス」から始まる。1986年に中央本線の昼行急行が廃止された後、183・189系によって急行アルプスが運行されていた。だが、2002年にアルプスが全廃。これに伴い、代替列車として臨時快速ムーンライト信州が運行を開始した。当初は毎週末運転の臨時列車として運行されていたが、その他の夜行列車と同じく、2007年頃には現在のような繁忙期のみの運転という形態に落ち着いた。

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2018.05.02 23:46 中央本線:新宿駅 (Canon7DmarkⅡ EF70-200mm F4L IS USM ISO-400)

 この列車の性質は他の夜行普通列車と比べて極めて変わった特徴を有している。新宿から夜行列車で大糸線沿線を結んでいることから分かる通り、北アルプスへの登山客及びスキー客の輸送がメインターゲットなのだ。そのせいか車内の網棚には大型のリュックサックやストックが数多く見受けられ、いかにもこれから登山します!という客が数多く見られた。近年の登山ブームの煽りを受けてか若いバックパッカーやハイカーも多く利用しており、スナップ写真を撮っているとファインダーによく現れた。こういった客がこの列車には似合う。車内をやかましく歩く鉄道オタクに対し休息を取りたい登山利用の客が注意を促すこともあった、という噂も聞いた。

 一方で上り列車は急行「アルプス」時代から利用客が少なく、近年では諏訪花火の時を除いて運行されることはあまり多く無かった。中央夜行は行きしかない"片道列車"なのである。

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2018.05.02 23:39 中央本線:新宿駅 (Canon7DmarkⅡ EF70-200mm F4L IS USM ISO-400)

 しかし、時代の趨勢は大きく変わってきた。189系豊田車の引退イベントが行われた直後に運転された2018年のGWでの運転では、到着前から多くの鉄道ファンが集結した。列車が到着する9番線も対岸の8番線も尋常ではない人が群がり、理想の構図など考えてる余裕がない程であった。鳥の噂によると鉄道ファンの割合が大きく増え、車内は発車後も暫く騒々しかったという話も聞いた。こんなことは登山客メインで輸送していた以前では考えられない事態である。

 この時、私は被写体として「死んだ」と思ってしまった。自由自在に我が物にできるムーンライトは消えたのだ。これからは人混みを絡めた写真を撮影する方向に路線変更せざるを得ないのだ。

 2018年夏は、前年度に比べて運行本数が減った。8月第1週は毎日運行されていたが、今年は8月ですら週末運行のみになってしまった。これから私は、ムーンライト信州とのお付き合いの仕方を変えなければいけないのかもしれない。